(その1) 大学概観-鳥取大学の物語

中島 廣光学長(左)と澤 和樹学長(右)

■名刺代わりのCD3枚

中島:本日は鳥取にお越し頂きましてありがとうございます。

澤:名刺代わりにCDをお持ちしました。9月の末に新しいCDが出まして、表紙が元学長の平山郁夫先生、題字が前学長・(現文化庁長官)宮田亮平先生、演奏は私です。(※1)(写真:中島学長へお渡し)

中島:3拍子揃って、うらやましいですね。名刺代わりがCDとは、ありがとうございます。

澤:鳥取県出身の作曲家、岡野貞一さんの日本の唱歌「故郷」や「朧月夜」も入っています。

中島:ありがとうございます。

澤:それで、しつこいようですけれども(笑)、こちらは、さだまさしさんと2019年11月に共演をしまして、レコーディングしたものです。私が作曲した「さだまさしの名によるワルツ」です。(※2)

中島:ありがとうございます。「さだまさしの名によるワルツ」、いや素晴らしいですね。 先生はこちら地元のオーケストラ(※3)の指導で何回か来られているんですか。

澤:いえ、本当は10月にも来る予定だったのが急遽中止になりまして、明日11月1日が最初の回なんです。演奏会は11月3日です。鳥取県は考えてみると、過去には何回も来させていただいているんですけれども、ここ4、5年はちょっと久しぶりという感じです。

※1. 「ヴァイオリンでうたう日本のこころ」 澤和樹     レーベル  : KING RECORDS     配信開始日 : 2020.09.23     収録曲数  : 全23曲 ※2. 「さだまさしの名によるワルツ」作曲 澤 和樹 ※3. 澤和樹 東京藝術大学長は、2020年4月、とっとりチェンバーオーケストラのミュージックアドヴァイザーに就任されました。

なごやかなお名刺交換

藝大歴代三代学長CDを手渡す澤学長(左)

思わず笑みのこぼれる中島学長(右)と河田機構長(後ろ)

■2020年、コロナ禍の大学

中島:東京の方は、キャンパスも大変な感じですか。

澤:そうですね。やはりご多分に漏れず、コロナの流行が始まった2020年1月、2月の終わりぐらいからですね。政府の要請で、いろんなイベントや展覧会、演奏会が中止になりまして、学生や我々教員も含めて、芸術活動ができなくなりました。

中島:大変な事態です。

澤:今年(2020年)3月の卒業式や4月の入学式も中止になりました。授業は一応ひと月遅れで5月からは開始しております。やはり基本はオンラインで授業です。

中島:例えば、絵を描いたり、演奏の練習などのご指導はどうしていらっしゃるんですか。

澤:6月ぐらいから徐々に卒業、修了の近い学生たちを優先にしたりするなど、様々に工夫しています。音楽学部の場合は、ほぼ一年中どこかの科が演奏試験をやったりしていますので、6月に演奏試験のある学生から優先的に。

中島:キャンパスでも徐々に活動できているのですね。

澤:そういう感じですね。6月からは許可を得たものだけ限定でやりまして、後期からは基本的に実技系は対面でやるようにして、座学はオンラインです。

中島:鳥取は幸い今のところ感染者が少ないということで、後期からだいぶ対面授業も始まっています。最近は結構学生活動も開始しているので、そういう意味では非常にいい環境です。人口が少ないので密になりにくいというのもありますし。もう一つ、感染者が少ないのは、真面目な県民性もあるのではないか、ということを医学部の先生が分析されたりしています。

■海外活動の制限

中島:ただ、こういう移動が制限されるという事態になりますと、海外での研究や活動が、3月ぐらいから完全にストップしています。先生の方は海外での演奏活動などいかがですか。

澤:ええ、2020年2月以降は、予定されていた外国への演奏旅行とか講習会なども全部中止せざるを得ない状況です。本当は11月には日本のオーケストラとしては56年ぶりにアルゼンチンとウルグアイに藝大フィルハーモニア管弦楽団(※藝大卒業生を中心とするプロのオーケストラ)100名近くを派遣する予定だったんですけれども、それが2022年の5月ぐらいを目処に、延期になりました。

中島:その頃には、少し状況が落ち着いているといいですね。

■鳥取大学の物語

中島:鳥取砂丘へは行かれたことがありますか。東部の方から、福部砂丘、それから浜坂砂丘。鳥取砂丘と言われているのは浜坂砂丘のことで、実は鳥取大学の海側も湖山砂丘、ちょっと先へ行くと末恒砂丘、北条砂丘、本当にずっと砂の県です。 昔から農地で砂の害をどう防ぐか、ずっと悩んでいた。そんな事情もあって、鳥取高等農業学校が大正初期にできました。日本で3番目にできた高等農業学校、今の鳥取大学農学部の前進校で、創立100年を数えます。 日本で最初にできたのは盛岡高等農林学校で、あそこは宮沢賢治が学んだというのが有名ですけれども、2番目にできたのは鹿児島で、3番目にできたのがこの鳥取です。

澤:農学系は歴史と伝統があるんですね。

中島:はい。砂が飛んできて街道を埋めて、旅人の行き来を邪魔したり、あるいは田畑に飛んできたりするもんですから、まずはその害を防がなきゃいけないっていうので、高等農業学校の先生が砂防の研究を始めました。科学的にこんな粒子だとこんな飛び方をするとか、どうやったら防げるか、どういう木を植えたらいいか、そこから砂防の研究が発展しました。これが成果を挙げて、うまく砂を防げるようになってきました。

■「砂丘」で「農業」という挑戦が、グローバルな最先端研究へ

中島:砂丘地での農業では、やっぱり次は水。水はけが良すぎて水が保持できない。そこで、人手で水を運ぶ。水を運んで、砂地に撒いて、水を運んで…大変な重労働だったんです。それを解決するために、日本で初めてスプリンクラーを導入したのが鳥取です。徐々に砂地での農業も定着しまして、今では、らっきょうや長芋、スイカなんかが地域の名産になりました。地域の課題を鳥取大学の研究で解決してきた訳です。

今、鳥取大学には「乾燥地研究センター」という、世界の乾燥地研究の最先端を走るセンターがあります。アフリカや中国、モンゴルなど、乾燥地は世界の土地の41%を占めていて、人口の34%がそこで暮らしている。その中でいかに安全で快適な生活を送れるか、という課題があります。そこで鳥取大学の長年の研究を活かして科学的に貢献を、ということで、現在JICAなどと共同で大型研究を進めています。

■キャンパス間の距離を超えるデジタル時代に

中島:他にもキャンパスの特徴があります。一つは医学部。医学部は米子市にあります。

澤:米子は結構行っているので、よく存じ上げています。

中島:前身は米子医学専門学校です。本部のある湖山キャンパスとは約90㎞も離れています。最近はオンラインでいろいろな会議ができるようになりましたが、昔は先生方に鳥取市に来てもらって大変な思いをしていた時代がありました。

澤:ああ、大学全体の会議を。

中島:そうです。昔は一日仕事で会議だけのためにキャンパスを移動していたという時代があったんですけれども、急速なデジタル時代に突入して、今度は逆にその大学内の不便さを乗り越える、最先端の研究実証ができるのではないか、と考えています。

対談の様子

■古墳や古代神話も味方?

中島:もう一つ、実はキャンパス内に古墳が二つあります。

澤:へえ、そうですか。

中島:元々山陰地方は古代ではいわば「中心地」ですから、出雲の方から鳥取にかけて沢山の古墳や遺跡があります。 西側に10分くらい車を走らせますと、白兎海岸があります。ここは「因幡の白うさぎ」の伝承の地です。大国主命が来て白うさぎを助けたという、例のあの話です。白うさぎがワニを騙して、ワニは実はサメらしいのですが、騙して海を渡って最後にそれがバレて、皮をむかれてしまって。通りかかった大国主命は心優しくて、真水で体を洗って、がまの穂綿でくるまっていなさいというのでそのとおりにしたら、元通りの白うさぎに戻ったというんですね。これは実は科学的にも正しくて、医学的にも傷口は真水で洗うのが効果的ですし、がまの穂綿の中には抗菌物質、殺菌成分があることが分かっています。鳥取大学には獣医学部がありまして、元祖獣医学部はうちじゃないか!ということを一つの「売り」にしています(笑)。

澤:それはいい「売り」ですね(笑)。

中島:どこへ行ってもそうやって宣伝しているんです(笑)。

澤:神話を味方にできるってすごいですね。 キャンパス内に古墳もあれば(笑)。

美しい白兎海岸

■地域の課題に寄り添う

中島:鳥取大学は地元にうまくより添って、地元の課題をうまく解決して、地域の発展に寄与するという伝統的な大学です。 私はちょうど赴任してきた40年前、京都から山陰線に乗ってコトコト鳥取まで来たんです。その時に前に座った鳥取の農家のご一家と仲良くなりました。「鳥取に何しに行くんだ」って聞いてくるから「農学部に助手として赴任していくんだ」、と言うと、 「農学部に林真二先生という(実は第八代学長なんですが)方がいらっしゃって、林先生は『梨の神様』だからぜひよろしく伝えてくれ」って言われたんです。その時は、地元の農家の方まで大学の先生がどんなことを研究しているかというのを知っていることに、すごくびっくりしました。私自身が学んだ大学(※東京大学)では、そんなことはとてもとても。ご存知のように東京の人っていうのは、別に東京大学とか一橋大学とか、どんな先生がどんなことを研究してっていうところまでは細かく分かっていないと思うんですけれども、鳥取大学は非常に地元に密着してるというのを、第一印象として感じたんです。

澤:今では国立大学や公立もそうですが、地域との連携が大事だと言われていますけれども、じゃあかなり昔の時代からそうだったんですね。

中島:ええ。大学というのは、長らく教育と研究、という2本柱だったのが、法人化してから3番目の社会貢献、地域貢献だと言われるようになったということですね。鳥取大学はその前から地元とうまく連携していく伝統があったのです。

■鳥取大学発「なしば茶」でティーブレイク

澤:なしば茶ですね。(※4)これもちょっとお話したいですね。

(お茶をすする)

中島:鳥取名産の梨の葉のお茶です。(両学長 お茶をすする) 梨の葉っぱに抗酸化物質などが入っています。うちの大学の先生が、これは抗酸化作用があって健康にいいんじゃないかということで、企業と連携して製品化したお茶なんです。 ご存じのように鳥取県は梨の生産量が全国トップクラスです。その二十世紀梨の葉っぱもどうにか利用できないかということで、試行錯誤を経て製品化しました。でもちょっとだけお値段が高いんですよね(笑)。

※4. 「なしば茶」の開発 https://www.tottori-u.ac.jp/item/16898.htm

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